セミナー「スポーツイベントとSDGs」開催レポートを公開
2019年1月23日(水)に、サステナブルイベント・セミナー
「スポーツイベントとSDGs」が開催された。
近年日本でも、世界共通の課題としてのSDGs(持続可能な開発目標)に対する注目が集まるようになってきたが、それを達成するための取り組みはまだ十分な状況とは言えない。
本セミナーでは、「スポーツイベントとSDGs」をテーマに、イベント分野との関わりや行動、ラグビーワールドカップの現状や他のスポーツイベントの取り組み、日本におけるSDGsの起源と背景などを紹介した。またパネルディスカッションでは、講師らが参加者のSDGsに対する疑問や気づきに向き合い、参加者自身が実践者となるためのヒントを共有することができた。
近年日本でも、世界共通の課題としてのSDGs(持続可能な開発目標)に対する注目が集まるようになってきたが、それを達成するための取り組みはまだ十分な状況とは言えない。
本セミナーでは、「スポーツイベントとSDGs」をテーマに、イベント分野との関わりや行動、ラグビーワールドカップの現状や他のスポーツイベントの取り組み、日本におけるSDGsの起源と背景などを紹介した。またパネルディスカッションでは、講師らが参加者のSDGsに対する疑問や気づきに向き合い、参加者自身が実践者となるためのヒントを共有することができた。
◎イベント分野とSDGsの関わり
ISO 20121規格(イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム)が発行されて以来、イベント分野におけるサステナビリティへの関心が日増しに高まっている。一方で、多くの人は特に「環境面」に対する関心が高いため、イベントは多くのゴミ・廃棄物が出るマイナスイメージを持っている。イベントのような人が多く集まる機会だからこそ、イベント分野の人たちが、世界共通のコミュニケーションツールとしてSDGsを深く理解し、発信・主張することが必要である。
◎行動を起こすための3つのポイント
1. サステナビリティに関する自分自身の課題を見つける
イベントに関わる人々は、SDGsに向けた取り組みについて、何が正解で、何が間違いかが分からないため、チェックリストを欲しがる傾向がある。しかし、一言で「イベント」と言っても、開催される国や場所、内容など多くの要素があるので、共通のチェックリストを作っても失敗してしまうケースも多い。大切なのは、イベントに関わる人々が集まることによって、自分たちのイベントにとって必要なサステナビリティを理解したり、課題を発掘したりすることである。
2. ストーリーを共有する
ミニ・オリンピックと呼ばれているコモンウェルスゲームズ(Commonwealth Games)が開催された時に、以下のようなクリエイティブな取り組みが行われた。
①会場付近のビーチに、誰でも参加できるカラオケの場が設置された。歌ったりダンスしたりすることで、人々の健康につながった。また、人が集まったことで、イベントへの協力的な姿勢がみられるようになり、SDGsの目標3(すべての人に健康と福祉を)および目標11(住み続けられるまちづくりを)の達成に貢献した。
②ビーチサイドで小さいロボットを使い、地面に自然の美しさを伝える詩を砂で書いた。自然の要素を利用したり、それを見た人々に環境保全のコンセプトを理解してもらうことで、目標12(つくる責任・つかう責任)および目標15(陸の豊かさも守ろう)の達成に貢献した。
このような創造性豊かな取り組みが、SNSなどによって多くの人と共有されると、SDGsの達成に向けて世界中で役立つことになるでしょう。
3. 定量化する
ヒルトンホテルでは、世界を変えるために、自分たちがどのような行動を取り、定量化しているかを発信している(例:100万個の衛生用品のキットの寄付、56万9千食の食事の寄付など)。また、カリフォルニア州のモントレー郡も、自然の美しさを宣伝する代わりに、イベントでどのぐらいのプラスチックが使われているのか、それに対する対応策などを伝える広告を出した。「イベントが与えるインパクトの定量化」をテーマに、マーケティングを行っていく動きが世界中で強まっている。
◎Impact Beyond 2019
ラグビーワールドカップ2019™日本大会には、「Impact Beyond 2019」という公式のレガシープログラムがある。
①日本でのラグビー登録人口(プレーヤー)の増加
②アジアでのプレーヤー人口の増加
③アジア全土へラグビーの普及、地元選手の強化
④世界でのプレーヤー人口を1,100万人以上にする
これら4つを達成するために活動している。チームと協同する経営陣とともに世界最高峰のイベントの計画・運営に携わることができるこの仕事そのものも、レガシーとなるだろう。
◎大阪、福岡のチャレンジ
大阪は、2025年大阪・関西万博に非常に注力しており、スポーツへの取り組みや関心を高めることが重要な課題で、スポーツという垣根を超え、それ以外の主要な話題に自ら飛び込んでいくことが大事になってくる。また、全国でもラグビーへの関心が高い福岡では、2018年から10年間ラグビーを通してアジアの中学生と交流する事業を発足した。県内だけでなくアジア各地へのラグビーの普及が目的であり、継続すること・場をつくること・社会にアクセスすることが重要である。
◎ラグビー以外のスポーツの取り組み
2020年東京オリンピック・パラリンピック、2025年大阪・関西万博は、SDGsを大きくテーマに掲げている。ラグビーワールドカップも、当初はSDGsや環境問題への取り組みを示してはいなかったが、時代の変化とともに少しずつ、何か残していけないか、と考え始めた。他のスポーツ関連機関・団体も取り組みを始め、スポーツ庁はスポーツを通じたSDGs達成に貢献する「スポーツ国際戦略」を発表。サッカー協会でも、さまざまな社会貢献活動を行っており「今後も、SDGsの達成にスポーツを通じ貢献していきたい」と発表している。
◎ラグビーの今後
ラグビーワールドカップは、世界中にラグビーを普及させていくことだけでなく、人々にアクションを起こす機会も提供できる。選手の影響力を活用して、SDGsを学ぶ機会を提供するなど、ラグビーを通して人と社会を繋げることに挑戦したい。社会・コミュニティにSDGsが広がることは、自分と社会の相互関係を理解し意識を変えるきっかけになる。人が人に残していくことこそが大切なのである。
◎SDGsとコミュニケーション
2000年から2015年まで実施されたMDGs(Millennium Development Goals)は、途上国の開発を主としていたが、この15年間で格差社会は先進国にも広がり大きな課題となっていた。私は、2005年のチーム・マイナス6%から始まり、森林保全の国民運動、生物多様性の主流化、そして企業の社会責任の全般に携わってきた。どのコミュニティも共通のゴールはサステナビリティをキーワードにしているものの、連携するための「共通言語」がなく互いに関係性を築けずにいた。しかし、2015年に全世界の全人類が共有し持続可能な社会の実現を考えるためのSDGsが採択されたことがきっかけで、相互のコミュニケーションを図る動きが始まった。
◎Transforming our world!
SDGsが記述された採択文書のタイトルそのものが「Transforming our world」。国連がこの「Transform」という単語を使うのは、人間社会が危機にひんしている時だけだと言われており、SDGsは人間と地球のための行動計画であると訴えている。SDGsには17ゴールの元に169のターゲットと232の世界規模での指標があるが、これを企業や団体規模におきかえて自分事としてカスタマイズし、実行することが大事になってくる。
◎SDGsのアイコンとコミュニケーション
SDGsがコミュニケーションとして広がっている最大の理由は、採択文書だけでなく、カラフルなアイコンの存在が大きい。SDGsが採択された時に、このアイコンを使ったプロジェクションマッピングを国連本部に投影し、アイコンで全世界の全人類にコミュニケーションしていくという決意を見せた。映像では世界中の風景が映し出されたが、その中に日本の風景は無く、日本は世界とのコミュニケーションから遅れを取っていると感じた。このため、国連公用語になっていない日本語はますます遅れてしまうのではないかという懸念から、アイコンの日本語公式版を博報堂クリエイティブ・ボランティアの枠組みで国連広報センターと一緒に制作した。
◎日本政府とSDGs
日本政府は、SDGs推進本部を設置しアクションプランを打ち出しているが、「ビジネス(Society5.0)」「地方創生」「次世代・女性」の、三本柱を基盤として進めている。「地方創生」では、今年度から「SDGs未来都市」として30の自治体を選出し、その中からモデル事業としてさらに10の自治体を選び予算をつける取り組みがこれから3年かけて行われる。2017年に国連で開催されたSDGsハイレベル政治フォーラムで、日本政府は「PPAP(public private and partnership)=官民連携」での推進を発表している。
◎スポーツイベントとSDGs
スポーツイベントは拡散力を持つため、SDGs達成のための大きな力となる。スポーツは、心と体を鍛えると同時に、具体的な環境問題に直面することを肌で感じることからサステナビリティの意識が自然と芽生えるのではないかと思う。このため、日本オリンピック委員会の環境委員会を通しスポーツ競技団体と協働して、インフルエンサーとしてアスリートを起用し、競技団体ごとに「温暖化で消えるスポーツがある」をテーマにしたメッセージを作成。横断幕イベントや広告展開を行って社会に伝えた。日本野球機構とは試合時間短縮によるCO2削減量を算定して公表したり、Jリーグでは温暖化対策を喚起する100mの横断幕を作成し、空撮して広告を作成した。このように、スポーツだからこそサステナビリティ・SDGsの意識を普及していくことは可能である。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、参加者からいただいた質問や気づきを基づき、3人の講師がそれぞれの視点で語った。
スポーツイベントの価値・力として感じているこ
本田 ラグビーワールドカップに限らず、スポーツが目指すことの1つに、感動で心を揺さぶることがある。それだけである種の成功ともいえるが、さらにその感動を、自分事化して解釈してもらえるとスポーツの枠を超える。スポーツイベントは、その枠を超えるためのきっかけになる。
川廷 講演で紹介した温暖化・CO2削減向けのスポーツ競技団体の取り組みからもわかるように、インフルエンサーとしてアスリートを起用することで、観客だけでなく選手自身も温暖化・CO2削減への意識を高めることができた。このように、スポーツは、サステナビリティを自分事として捉えてもらうための力をもっていると思う。
ペラム スポーツは、色々な国の人との出会いの場をつくることができる。実際に顔を合わせてプレイすることで、お互いの文化や習慣を理解することができる。それが、目標16「平和と公正をすべての人に」達成のきっかけになると感じている。
ラグビーワールドカップの開催決定から今まで感じた変化(日本とイングランド)
本田 最近よく感じているのは、チケットの話を耳にするようになったこと。現在、チケットが先着で販売されているが、インターネットで熱ができ、社会がラグビーワールドカップへ関心が高まっている。
ペラム イングランドの場合は、ラグビーワールドカップの開催のきっかけに、元々成人の男性がプレーするスポーツだったが、学校に入る前の男女問わず小さい子が行うようになった。男子の選手と同等の金額が、女子の選手にも支払われるようになった。これはジェンダー平等に関わる大きな変化である。
イベントに取り組む際に気を付けていること
本田 当然のことですが、イベントに関わる人はそれぞれ立場が違うため、それぞれが心地よく取り組める環境を作りたい。自分が場をリードする立場の時は、自分のために、やりたいことをやろうとしていないかに気をつける。みんなでなりたい姿を共有し、そこに進んでいけるように努めている。
川廷 意見や立場などの多様性を受け入れ、立場で判断するのではなく、人間的な立場でお互いに対話をするようにしている。一緒に考えていくシナリオを見せることもSDGsの一部だと思うので、課題を共有しながら、イベントという楽しめる場を作り上げていくことが大事だと考える。
ペラム 一番重要なのは、他の人たちを巻き込んでいくこと。自分がきっかけで1人でも行動を起こした人がいればそれは成功だと私は思う。行動に正解はないので、1人1人が行動を起こすことが大きな変化を生む。まずは、自分事として取り組んでもらえるようなサポートをしていきたい。
サプライチェーンの動きについて
川廷 現在、大企業を中心にSDGsが浸透している。その影響で中小企業も調達などの認証を取り、少し動きが出てきたが、まだ十分だと言えない。 中小企業が行動を取るように、自治体がSDGsやサステナビリティに関する評価やわかりやすい仕組みを作ると同時に、中小企業向けのSDGsのツールを作成している。
ペラム サプライチェーンが行動を起こすためには、ツールとしてSNSの利用が大事である。SNSは誰でも使えるツールであり、SNSで何か問を発することを通じて、行動の変化を促せるし、よい事例も共有できる。
スポンサー・協賛企業としてSDGsの貢献機会
本田 スタジアムは、今よりもっとすばらしい場にしたい。スタジアムは、色んな人が集まることができ、色んな発想が生まれる場所である。SDGsに絡めたコンセプトメイクで、スポーツ団体とディスカッションすると、非常にいいと思う。
川廷 イベントに関して課題やテーマが何かしらある。主催者の抱えている課題、協賛企業が持っているテーマなどがあるからこそ、イベントのテーマによって17のゴールのパネルをいろいろ掲げられる。優先的に考えることは、協賛としてのメリットではなく、SDGsを自分事にする。そうすると、色んな貢献の可能性・機会があると思う。
各講師から最後のメッセージ
本田 人間関係やコミュニケーションが非常に重要視されているこの世の中で、SDGsは、世界共通の目標としていろいろな垣根を越えて話が出来る共通のコミュニケーションツール。より多くの人と、このSDGsというツールをきっかけにコミュニケーションがとれれば、心地よい社会がつくれると思う。この波に乗って、まずは今の仕事から取り組んでいきたい。
川廷 自分たちの暮らしレベルで実感できるSDGsがある。例えば、世界で初めて宮城県南三陸町が環境に配慮した牡蠣の養殖で水産養殖管理協議会(ASC)と森林管理協議会(FSC)の両認証を取得した。労働時間が減り、牡蠣も良質になったと同時に、SDGsの課題もクリアできた。このように、自身にとってのSDGsを考えて取り組んでいただければと思う。
ペラム SDGsは独立したテーマではなく、全て繋がっています。1つでも自分の関心がある目標へ継続して活動していけばそれがおのずとSDGs全体に寄与されていくのです。SDGsが徐々に浸透してきて、ビジネス業界の言葉のように感じている人もいるかもしれないが、これはみなさんが世界に貢献できる機会。SDGsは私たち人間にそういうことができるチャンスを与えてくれているのだと考えている。
「グラフィックレコーディング」とは、イベントや会議などで、絵や図などのグラフィックを使い、議事録としてリアルタイムに記録する⼿法である。
今回、会場でinnovation-team-dotのdotグラレコ部によるグラフィックレコーディングが⾏われ、講演やパネルディスカッションの内容・情報をもとにポイントや議論を模造紙にまとめた。セミナー終了後のネットワーキングで、講師と参加者同⼠がこれらを⾒ながら、交流したり、意⾒交換を⾏った。